科学療法を行うにあたって心配なことがある。抗がん剤による造精能への影響、つまり今後子供を作ることができるかどうかである。
精巣腫瘍で用いる抗がん剤のひとつ、「シスプラチン」という薬が造精能に影響を及ぼすようだ。
先生にも相談したが、そんなに心配するほどではないと言っていたが、これについては後から無精子症になってしまってからでは遅い。
過去の例などデータがないか相談してみたら、製薬会社に問い合わせてみるとのこと。
また、それとは別に精子の冷凍保存を行うことにした。化学療法を始める前の精子を保険として保存しておく。
どこか病院を紹介してもらえると思っていたが、自分で探してほしいとのこと。
入院している病院から近い婦人科を探してさっそく行ってみた。
まずは、精子の検査をするとのこと。検査をしてその精子を凍結保存できるらしい。
「採精室」という鍵のかかる個室に案内された。
直径5cm高さ10cmほどのプラスチック容器を渡され、これに出してくださいとのこと。
(お見舞いにもらった官能小説を持ってくればよかったかなぁ)
採取したあと、物を預ける。1時間ほど待合室で待つ。
結果はかなり悪いといわれてしまった。
精子濃度: 7.3million/ml (正常値:20million/ml以上)
運動率 : 19% (正常値:50%以上)
これにはかなりショックを受けた。根拠もなく精子は大丈夫だろうと思っていた。
(あとでわかったことだが、腫瘍が原因で精子数などが下がっていることも多いようだ)
婦人科の先生にも、今後どれくらい下がるかわからないとか、精子数を回復する手段はないとか、ぼろくそに言われた。
(これもあとから調べてわかったのだが、術後に回復している例はいくつもある)
婦人科の先生に言わせてみれば、本当に不妊症で悩んでいる人は、こんなもんではないとでも言いたそうだが、
ガンの治療でいっぱいいっぱいの状態でそのように言われれば、どんな気持ちになるか考えてほしいものだ。
それとも男嫌いか?
ほかの婦人科に変えようかとも思ったが、当面の目的は精子の保存だけなので、とりあえずそこで保存することにした。
保存した精子をほかの婦人科へ運んでそこで人工授精なども行えるそうだ。
精子の保存1回が、人工授精のチャンス1回となる。人工授精に成功する確率は100%ではない。
1回で成功する人もいれば、10回でも駄目な人もいる。つまり、1回保存したからと言って安心できるわけではない。
たくさん保存できればよいが、その分化学療法を開始するのが遅れることになる。
婦人科の先生は抗がん剤治療中でも保存は可能と言っていたが、このあたりはまだ意見が分かれているようなので、
なるべく開始前に保存したい。
妻は、私の命に代えられないので早く治療を始めるべきと言ってくれたが(ありがとう)、少し延ばしたからと言って、
命にかかわることではないので、治療の開始を1週間延ばし、3回分の精子を保存することにした。
あと、3回目のマーカー検査も行った。
AFP値:48
順調である。