午前中は顧客先で打ち合わせ。午後会社にもどり、クリニックに検査結果が出ているか確かめる。
検査結果は出ているようだ。そのあと、仕事をした記憶はない。作業票は適当にごまかした。
柄にもなく、親より先に死んでしまうのはどんな気分だろうかなど考えていた。
定時後、すぐにクリニックに向かう。普段は定時で帰れることはほとんどないが、今はそれどころではない。
精巣腫瘍で検査する腫瘍マーカーは通常3種類。病期Ⅰでもある程度進んでいないとマーカー値は上がらないようだ。
何となく、マーカー値はまだ上がっていないだろうと楽観していた。
クリニックに着く。ほとんどの人が呼ばれてから3分程度で診察室から出てくる。そして私の名前が呼ばれる。
気のせいか空気が重たい。まずは結果を聞く。
「AFPの値がよくありません。正常値は10以下ですが、346あります。」
そのあとも、いろいろ説明が続いた。かなり回りくどく、大変な病気であることを説明していた。
「これがいわゆる癌の告知かぁ」と他人事のように聞いていた。なぜか冷静に聞くことができた。
説明があまりにも回りくどいので、「要するに精巣腫瘍ですよね」とこちらから言ってしまった。(怖くて「癌」という単語は使えなかった)
そのあとは話が早く、手術が必要なので、大きな病院で診てもらえばすぐに手術日が決まるだろうとのこと。
病院は紹介してもらえるのかと思っていたが、自分で決めていいとのこと。やはり紹介してほしいと頼んだが、「精巣腫瘍の手術は難しくないので、市立病院程度のところの泌尿器科ならどこでもできる。むしろ身近な人が通いやすいことを考えて決めたほうがよい。」とのことだった。
その日の夜、妻と相談し、最寄駅から地下鉄で20分程度で、妻の通勤途中にある病院を選んだ。